F3 建築における「いき」の美学とは

F3 建築における「いき」の美学とは

●哲学者九鬼周造は著作『「いき」の構造』で、建築上の「いき」について次のように述べています。
「要するに、建築上の「いき」は、一方に「いき」の質量因たる二元性を材料の相違と区画の仕方に示し、他方にその形相因たる非現実的理想性を主として材料の色彩と採光照明の方法に表わしている。建築は凝結する音楽といわれているが、音楽を流動する建築と呼ぶこともできる。」

※形相因、質量因について
事物の材料、例えば家でいえばそれを構成する木材が質量因である。しかし、家が建てられるためには、その材料があるだけではなく、そもそも家とは何であるか、その本質が分かっていて、はじめて家としての機能を十分に果たしうるものが建てられる。この例のように、事物の何であるか、その本質、ないし形にあたるものが形相因である。(藤田正勝) 

●相違する材料をつかい形の区画を二元対比でデザインし、更に、建物の理想の機能性を材料の色彩と空間の光の分布による二元対比でデザインする。この2重の二元対比で、全体から細部にまで構成することで「いき」の建築をつくる。「いき」の言葉に「息」「粋」「意気」「生き」の意味を込めている。(野々瀬 徹)

野々瀬が設計したジャストビル。黒御影石とホワイトアルミパネルによる素材の色彩と重量感の二元対比の構成。黒御影石の静的方形と、ホワイトアルミパネルの平面と立面共に張り出す立体的動きの上に円弧の屋根を乗せた形の二元対比の構成。色彩と空間の光の分布に情報化オフィスビルの理想を投影した。このように重層的な二元対比により「いき」の美学を追求した作品です